< 番外編「冬の星座」〜カンナの独立開業物語〜  >



それは、一段と寒い冬の日だった。
カンナは新板橋駅近くの古い居酒屋「百万石」で、数ヶ月ぶりに曽根崎と会っていて、マグロの刺身を食べながら、昔話に花を咲かせていた。
「右原、今月は4件競売で物件落としたぞ。新橋のビルが2件、市ヶ谷と新宿のビルが1件ずつだ」
「すごい!大収穫じゃないですか。今の四谷の本社ビルも、競売で落とした自社ビルですもんね」
「今のビルは、競売で4,880万で落としたんだ。バブルのときは13億のビルだったんだぜ」
「曽根崎先生は行政書士事務所やってたころから、不動産の競売落札のビジネスやってましたもんね。懐かしいなあ。よく私も競売物件の資料をコピーしに東京地裁に行かされました」
「まあな。俺は子どものころ、実家が借金のかたに銀行にとられて競売で他人の手に渡っちまったのが、子ども心に悔しくてね。だから不動産には人一倍思い入れがあるんだ」
「それが曽根崎先生のエネルギーの原動力になってるんですよね」
「まあ、そういうことだ。それにしても、この居酒屋、本当に懐かしいなあ。昔、右原と一緒に来たときのことを思い出すよ。そもそもお前が俺の事務所に来たのは、確か4年ちょっと前だったな」
「はい。あのとき、私はまだ就職活動中の大学生でした」
カンナはあの日々のことを、ゆっくりと、そして少しずつ思い出していた。

その日の午後、リクルートスーツを身にまとったカンナは、丸の内の信託銀行本社で人事面接を受けていた。
当時カンナは大学4年生で、就職活動のまっただ中だった。
面接官は険しい顔でカンナの履歴書に目を落として話していた。
「はっきり申し上げて、あなたの大学のレベルでは、女子の総合職は採っていないんですよ。しかもあなたは大学入学時に浪人している。まあ、何か特別な資格を持っているなら話は別ですがね」
そう言うと、面接官はカンナの履歴書に一瞬目をやった。
「ふーん。行政書士、か・・。社内でこの資格を持っていたところで、役にたつわけでもないからねぇ。まあ、今日はもうこれで帰っていいですよ」
「落ちたな」
そうカンナは直感した。
「ありがとうございました。失礼いたします」
カンナは形式的なお礼をして信託銀行のビルを出ると、東京駅までがっくりと肩を落としながらトボトボと歩いていた。
「ああ。これで銀行は14戦14敗か・・。今回はせっかく大学のリクルーターの先輩が人事面接までプッシュしてくれたのになあ。やっぱり私には銀行、向いてないのかなあ」
  するとカバンの中の携帯が鳴った。
「あれ!?どっかの会社の2次面接の連絡かな?」
カンナがあわてて電話に出ると、その電話口の主は言った。
「君、右原さん?今度、うちに面接来てよ」
「は!?失礼ですが、どちらの会社様でしょうか?」
「ああ、ごめん、ごめん。そ・ね・ざ・き。曽根崎事務所の曽根崎だよ。右原さん、2ヶ月くらい前にうちの事務所にバイト応募の履歴書、送ってくれたでしょ。今、それ見て連絡してるんだけど、ヒマならちょっとウチの事務所来てくれないかなあ。今日の夜7時には事務所にいるからさあ」
「2ヶ月前?ああ、思い出しました。あの、行政書士事務所の・・」
「そう、それそれ。それじゃあ、今晩7時によろしくね」
そう言うと、一方的に電話は切れてしまった。
しばらくカンナは呆然としていたが、その夜仕方なく、リクルートスーツのまま板橋の“曽根崎行政書士事務所”に向かった。

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■主な登場人物紹介
■「行政書士の花道」あらすじ紹介
■カンナの行政書士開業Q&A
■「行政書士の花道」トリビア